徹生の部屋
Opening 関東でいちばん暑い夜
喉の渇きを覚えて目が覚める。
しまった! 冷房を点けたままで寝ちゃったのかも。

頭を動かすと、微かに頭痛もした。
もしかして夏風邪をひいたかな?

うっすらと開けた目に、鮮やかな空色が飛び込んでくる。
いいお天気。今日も暑くなりそうだ。

……あれ? やっぱり熱でもあるのかな。夏の青空が揺れている。というか、これってはためいてい、るっ!?

異常な現象に、喉や頭の痛さも忘れて跳び起きた。

身体にかかっていたらしいシーツから出た上半身が、やけにスースーする。
恐る恐る目を下に向けてみれば、嫌な予感はものの見事に的中。

ギギギっと骨が軋む音がしそうなくらいぎこちなく、開け放たれた窓から吹きこむ風に揺れる、空色のカーテンとは逆の方向へ首を横に動かす。

果たしてそこには……?

「なんだ。朝っぱらから騒がしい。ああ、もう昼か」

少し掠れた気怠げな色気のある低音を発し、眩しそうに額を覆っていた手で前髪をかき上げる、見知らぬ……わけでもない男性が横たわっていた。

人間って、本当に驚いた時には悲鳴も出せないものだと、私は今日この瞬間、身を持って知る。

慌てて心もとない格好をした身体に手繰り寄せたシーツを巻きつけ、スプリングの効いたダブルベッドの上で身を縮めた。

「な、なんで桜王寺さまがいるんですか!?」

「なにがいけない? ここは俺の部屋で、俺のベッドの上だ」

シーツを奪われ、不機嫌も露わに起こした彼の上半身は裸。それより先に視線を下げることもできず、一気に熱くなった顔を逸した。

くっ、と抑えた笑い声がして、シーツごと彼の腕の中に引き寄せられる。

「まさか、あんなに暑い夜を忘れたわけじゃないだろうな。――楓?」

広い胸に抱きしめられ、耳たぶをくすぐる吐息と頬に触れる彼の少し汗ばんだ素肌が、私の心拍数を26年間の人生で最速を記録するまでに高めていく。

「……熱い、夜?」

「ああ。最高に暑かった」

甘やかな声音で囁いた桜王寺――徹生さんは、冷や汗が流れる私の首筋を、熱い舌先でザラリと舐め上げた。





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