徹生の部屋
#3 勝手な御曹司
* * *

「ちょっ!? 何するんですかっ!」

胸元をシーツで隠したまま、もう片方の手で舐められた首を押さえる。

「塩分補給。昨夜は楓に、たっぷりと汗をかかされたからな。って、本当に覚えていないのか?」

徹生さんは口角を片側だけ上げて、私の顎先を摘んだ。
切なげに曇る視線に晒され、そこから目が逸らせないのは顔が固定されたせいだけじゃない。

「……ウソ、言わないで、ください」

カラカラの喉から、ようやく言葉を絞り出した。

「ウソじゃない。おまえがエアコンを点けるなというから、暑くてたまらなかった。この気温の中、窓を開けたくらいでなんとかなるものか!」

徹生さんは眉間にシワを寄せ、顎にかけられていた指先に力が込められる。

ふん、と荒くした鼻息が、私の冷や汗をかいた顔面にかかる。

「客間と間違えたのか、俺が部屋に戻ってきたら、おまえが俺のベッドで大の字になって寝ていたんだ。それもなぜが、ご丁寧に服を脱いでなっ!!」

ちらりと瞳だけを動かした視界に、歩きながら脱いだらしく、点々と床に放置された私の衣類が入る。

うわっ! いますぐ回収したい衝動に駆られたけれど、徹生さんは私を捕えて離してはくれない。

「仕方なく俺が客間に行こうとしたら、突然起きあがり抱きついてきて泣き出すんだから、たまったものじゃない」

「ええっと。そんなこと、しました?」

まったく記憶にございません! と叫んだところで、状況証拠は揃っている。

落ち着け、自分。
眼球を上下左右に目一杯動かして室内を見回す。

目が覚めたときに見たカーテンの爽やかな空色が、昨夜、この部屋に入った瞬間も目に飛び込んできたことを思い出した。

そして、窓脇に置かれたウォールナットのライティングビューロー。実用的でシンプルなデザインは、この部屋の主が少年だったことを主張する。

存在感がありすぎるベッドの大きさだけが、現在の徹生さんのイメージとピッタリ重なった。


昨日の夜はエスコートされるように階段を上り、そのまま二階も案内してもらっていたはずで――。

「とりあえず、シャワーでも浴びてこい。場所はわかるな?」

必死に記憶を辿ろうとしていると、徹生さんは髪をかきあげながら立ち上がる。
あ、ハーフパンツ履いていたんだ。

ちょっとだけホッとした私をベッドの上に置き去りにして、彼は部屋から出ていった。











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