徹生の部屋
#2 家は広いぞ、大きいぞ
* * *

間取り図を眺めるのが好き。
折り込みチラシの不動産広告にある売物件の間取り図に、好き勝手に家具を書き入れる。そんな安上がりな遊びをする子どもだった。

ある日、短大卒業と同時に勤めていた片田舎のホームセンターで、桧山家具が近々、新しいコンセプトをひっさげて、ついに東京進出をするという噂を耳にする。

九州の地元では名の通った老舗家具店である『桧山家具』は、主に輸入家具を扱うお店だった。
本社ビルにあるショールームには、天蓋付きのベッドや優雅な猫足のテーブルなどが品良く展示され、さながらヨーロッパのお城の一室のよう。
その前を通るたび、ガラス越しの異世界に心を馳せてシンデレラのような気持ちになったものだ。

『桧山家具』『東京』『新規事業』

夢のようなキーワードにワクワクして開いたホームページの片隅にあった求人の記事に、思わず携帯を握りしめてしまった。

・経験者優遇
・社員寮完備
・やる気・元気・勇気のある人、求む!

昼休みだった私は、休憩室を飛び出し文房具売り場で履歴書を買い求め、気づいたら店舗の外にある証明写真撮影のボックスに、制服のまま座っていた。

かくして、短大時代に取得したインテリアプランナーの資格と約四年間の家具売り場経験を武器に難関を突破し、見事採用を勝ち取る。

そしてはるばるやってきた、東京。念願の職場、桧山家具。
新規開店前の準備から関わり、自分なりに一生懸命仕事をしてきたつもり。最近では、私のセンスを信頼し、指名してくれるお得意さまもできた。

桜王寺姫華さまも、そんなお客さまの1人になるはずだと思っていたけれど……。




< 6 / 87 >

この作品をシェア

pagetop