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「おはよう! なんだか久しぶりじゃない?」

「おはようございます、五木さん。長い間お休みをいただいてしまって。ありがとうございました」

「夏期休暇でしょ? みんな取るんだからお互い様。いいお休みだったみたいね」

休み明けの更衣室。販売部チーフの五木さんに、勢いよく背中を叩かれた。

「はい。実家にも行ってきたんです。これ、お菓子なんですけど、休憩室に置いておくので皆さんで召し上がってください」

お土産の入った紙袋を掲げると、五木さんは顔をほころばせ、目ざとくもうひとつの袋をみつけた。

「すみません、こっちは母が店長に持って行けと」

「あ、そうなの。もしかして焼酎?」

「よくわかりましたね! 地元の酒屋でしか売っていないもので、値段のわりに美味しいんですよ。芋焼酎独特のクセがたまらなくて」

以前同郷の店長に話したらすごく興味を持たれたのだ。


隣県に帰った兄一家と入れ違いに、一泊二日という強行スケジュールで帰省した私を、両親たちは驚きながらもいつもと変わりなく受け入れてくれた。
祖母はいなり寿司を新たに作ってくれ、母は私を運転手にして買い物に連れ回し、夜は父と祖父の晩酌に付き合わされた。

近所では小中高といっしょだった友だちに再会し、招待された新婚のアパートで、時間の許す限りしゃべり倒した。
妊娠中の彼女の、のろけにしか思えない旦那の愚痴をたっぷりと聞かされ、別れ際には「楓の愚痴もいつでも聞くよ」と言われて。

自分はいったい、なにに対して意地を張っていたのかわからなくなった。

こういうのもホームシックっていうのかな。
うじうじモヤモヤしていた感情も、東京に帰るころには、飛行機の窓から見えた空みたいにスッキリと晴れていた。


「井口さんって、お酒飲むんだ」

思い出し笑いを浮かべていた私を、五木さんは驚いた顔で見ている。
あれ、知らなかったのかな。

「好きですよ。けっこうなんでもいけます」

「へえ。一滴も呑めません、って顔しているから意外! だったら今度呑みに行かない? 焼酎の揃えがいいお店、知ってるの」

「ぜひぜひ!」

なんだ。こんな簡単なことだったんだ。

あっという間に三日後の約束をして、肩から力がすうっと抜けた。