晴れのち曇り ときどき溺愛

覚えること 考えること

 お見合いの日の事も、居酒屋で再会した日のことも私は忘れられなかった。捨てられない名刺もまだ財布の中にある。

 
 部下として下坂さんと一緒に働かないといけなくなった今としては名刺を貰った時に連絡をしないでよかった。そうでないと私は今の環境から逃げ出していたかもしれない。下坂さんは何事もなかったように私に話し掛けてくるけど、私はその度にドキドキしていた。やっぱり好意はある。


「歓迎会は和食でいいかな?斉藤とかは居酒屋なんかのガッツリ食事が店がいいらしいけど、井上さんも見城も落ち着いた店の方が好きなんだ」


「歓迎会なんて申し訳ないです」

「申し訳ないとか思わなくていいよ。これから一緒に仕事をしていくし、早くシステム課に慣れて欲しいと思ってる。店は井上が予約をするから、その後のことは井上から聞いて」

「はい。ありがとうございます」


 下坂さんは営業室に戻ると、井上さんを呼び、そして、下坂さんが何かを言うと井上さんが頷いた。そして、下坂さんは営業室から出て行った。井上さんはニッコリと笑いながら戻ってきて、私にまた仕事を頼んできた。


「これが終わったら今日の仕事は終わりにしようね」


 渡されたのは数枚の書類。定時に終わることの出来るだけの分量だった。



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