公爵様の最愛なる悪役花嫁~旦那様の溺愛から逃げられません~
私の生きる場所は
◇◇◇
王都エルゴーニュは、ゴラスよりひと足早く、春を迎えようとしていた。
宮中晩餐会以降、私はひっそりとオルドリッジ家の屋敷にこもるようにして暮らしている。
もう貴族的な知識を溜め込む必要はないのに、やることがないので、書庫で過ごす時間はこれまでと変わらない。
ただ、ジェイル様が私の勉強に付き合ってくれることは二度となく、日が昇って暮れるまで、黙々とひとりで本を読み耽るという点は違っていた。
徐々に日は長くなり、十七時半を過ぎてもまだ空には茜色が残っている。
でもそれも夜の暗さに侵食され、確実に明るさを減らしていた。
座って読んでいた手元の本から、寂しげな窓辺に視線を移し、心に呟く。
今日はジェイル様に会えるかしら……。
ひとつ屋根の下に暮らしているというのに、一週間も彼の姿を見ていない。
真夜中に帰って早朝に出かけたり、帰らない日もある。
宮中晩餐会後の三カ月ほど、彼はかつてないほどの多忙の中に落とされて、それは私との契約を履行しようとしてくれることが原因だった。