Maybe LOVE【完】
ありえない恋の始まり

「「「かんぱーい!!」」」

職場の先輩に誘われた飲み会に来たのが約一時間前。

「カナちゃん、飲んでる?」

前に座ってる男の人に声をかけられたのが、その20分後。

「いい飲みっぷりだよね」

そう言われたのが今から1分前。

飲んでも飲んでも酔えないあたしの前に広がる空いたジョッキ。
見えるだけで3本はある。

「全然酔えない」

周りに聞こえない程度に溜息を吐いた。

久しぶりに先輩からのメールで《飲み会があるんだけど来ない?》と誘われたのが一週間前。
先輩といえども年は8歳も上で、特別可愛がってもらってるわけでもないけど、たまにこうして誘ってくれる。

先輩は4年も付き合っていた彼氏がいたのに別れて、今は婚活真っ盛り。
綺麗だし料理出来るし何でもハッキリ言う人だからサバサバしてモテる。なのに、選り好みしちゃうから、なかなか出会えていないらしい。

なぜ私が誘われたかと言うと、“下の子がいないから”という理由。
ただの人数合わせに過ぎないんだろうけど、下の子がいないって事は当日私だけ完全にアウェーってこと。
それがわかってて来た私もバカだとはわかってる。

案の定、20代前半は私しかいなくて、会話はついていけないし、男性陣はお姉さま達と楽しそうに話しているし、完全にアウェー状態。
最初は愛想笑いもしていたけど、だんだん疲れてきて、今は無言。話しかけられたら話すけど、それ以外は飲んでるか食べてるか。
想像はいていたけれど、想像以上に楽しくない。

完全に浮いている私は食べ続けたせいで、食べ物も飲み物ももう入りそうにない。
携帯を取り出して時間を確認すると、あれから1時間とちょっとは経っていて、そろそろトイレで抜け出してもいい頃合だとバッグから携帯を取り出して、席を立つ。

「カナちゃん、どこいくの?」

隣に座ってた人が黙って飲んでりゃいいのに目ざとく声をかけてくる。

「少し電話してきます」

にっこりと笑顔を向けると、「男かぁ~?」と私をからかう。
このありきたりな絡みはどこの飲み会に参加しても絶対あるな、と思いながら、気合の入っていないスニーカーを履いて外に出た。

季節は初夏。
昼間は蒸し暑いけれど、夜はまだ涼しい。風が冷たくて、お酒の入った体を冷ましてくれる。
ホッと一息つきたいけど、今気を緩めたらいつも以上に入ってるアルコールが回りそうで怖い。

とりあえず、電話をすると言ってあの空間を出てきたから、携帯は触っておこうと思って、お店に背を向けてガードレールにもたれて適当な時間を潰す。
一応、タイムリミットは10分の予定。さすがに15分20分になると気を遣われそうだし、切らなきゃいけない側の私のイメージも悪くなりそうだ。

携帯は触るものの、特に電話をする相手もメールする相手もいないから、じっと時間が過ぎるのを待つ。
ボーっと走り去ってく車を見たり、明らかに中学生なのに、こんな時間まで遊んでていいの?って勝手な心配しちゃったり、何も考えることなく、ただボーっと時間を潰してた。
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