Maybe LOVE【完】
そのイトは?


「カオル」
「…んだよ」

ベッドの中。
がっつり抱き締められてるあたし。

「明日から仕事だし帰んないと」

だから離して、と言うけど手は離れない。
ちょっと前から気付いていたけど、もう日付も変わったし本当にこれ以上はまずい。

「朝イチで帰ればいいだろ」
「朝イチは無理。間に合わないから」
「間に合う」

あたしの事なのに何を根拠に言ってるのかわからないけど、間に合うと言ってきかないカオルから無理矢理離れた。

「なんだよ」
「なんだよ、じゃないよ。明日、仕事なの。いつまでも正月休みじゃないの」

どうしてこう我が儘にしちゃったんだろう。
我が儘で俺様だったけど、ここまで聞き分けが悪くなかった。
なんでかな?と首を傾げながらベッドを出て身支度を整える。

「なぁ」
「ん?」

諦めたのかと思えば帰り支度をするあたしを見ながら「ここ住めよ」と言った。

「はぁ?」
「はぁ?じゃねぇよ。前から言ってんだろ」

カオルもベッドから降りて下に落ちている服を拾い上げ着る。

「いや、それは流れでしょ」
「流れってなんだよ」
「あたしがいつも泥酔して寝ちゃうから言ってただけでしょ」
「バカか。んな事くらいで言うか」

ボケんのも大概にしろよ、と言われても。冗談だと思ってたから軽く流してたけど、本気だとは思わなかった。

「仕事だってこっから行っただろ」
「あれは準備してたし」
「じゃあ持ってこい、全部」

簡単にサラッと言っちゃうカオルに唖然とするしかない。

同棲する気満々なんだろうか。
月2回のお泊まりじゃダメなんだろうか…ていうか、このタイミングで言う?
明日から仕事始めだっていうのに。
あ、もう今日か。

「ねぇ、その話は今度でいい?」
「今度っていつ」
「今日以外で」

“今度っていつ”って子供かよ。
カオルはあたしを見て溜息吐いた。

「今日以外な。俺だって子供じゃねぇし、お前が嫌なら別にいい。送るわ」

なんだか雰囲気の悪くなった部屋。
言葉を間違えたのか不安になるあたしを見ずに車のキーを持って先に部屋を出たカオルの背中を見てた。

あんな強引に言っておきながら最後は別にいいって振り回すなって言いたい。
あたしだって一緒にいれたら幸せだけど、色々あるじゃん。
あたし達以外の色々が。
そう思うのは間違ってるんだろうか。

結局、うちに着くまで無言の車内。
車から降りて荷物をおろしてもカオルは煙草をくわえたまま何も言わなかった。

「ねぇ」
「なに?」

不機嫌丸出しな返事。
イライラしてるのはわかるけど、あたしだって色々考えたい。

今の気持ちを言えば長くなるだろうからドアを閉めて運転席の方へ回る。
窓を開けたカオルに「前向きに考える」とだけ言った。
煙草の煙を吐き出し、あたしを見てまた溜息。

「真面目なお前だから五分五分で期待せず待ってるわ」

そう言って延びてきた手に捕まって、いつものバイバイのキス。
じゃあな、といつもは渋るのにあっさり帰っていく車を消えるまで見てた。

そんな風に帰ったら色々考えちゃうじゃん。
我が儘言って突き放して五分五分で期待せず待ってるとか完全に期待されてない。

あたしは実家住みなんだよ。
同棲なんて両親がどういうかわからないじゃない。
そんなの恥ずかしいじゃない。

でもカオルが同棲を持ちかけてくれたのは嬉しかった。

一人ニヤニヤする顔を押さえて家に入る。
今日から仕事だっていうのにカオルの言葉が反芻して離れない。
きっと寝て覚めても同じ顔して浮かれてるに違いない。

カオルと同棲したらどうなっちゃうんだろう…と一緒にいられることを想像しただけでドキドキした。





END.
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