Maybe LOVE【完】
重大発表


「ただいま」

玄関から彼の帰宅の声。
今日も疲れたご様子。
声色で機嫌と気分がわかるようになるくらい一緒にいるようになって早一年。
なんだかんだ言って毎日楽しく過ごしてる。

あれほど抵抗あった同棲も気づけば一年。
両親に報告した時は意外とあっさりで拍子抜けした。

その後すぐに両親に挨拶に行きたいと言い出したカオルにまたもや全力で拒否したことで過去最高の大喧嘩になり、あたしが折れて挨拶に来た。

その時はうちの両親はこんな娘でいいのか、いつでも貰ってくれと言ってカオルをただ喜ばせただけで、今も月に一度は一緒にご飯を食べる仲。
そんな関係も一年が経ち、今はいつ籍を入れるのか…なんて話が出ていた矢先のこと。

「帰ったぞ。なんだ話って」

そう、今日はカオルにとって重大発表があって直帰してもらった。
いつも直帰だろうけど、こちらから連絡を入れて帰ってきてもらった。

なんてったって、重大発表だから。

「まぁまぁ、先にご飯食べるでしょ」

キッチンに立って夕飯の準備をするあたしに話の内容が気になるらしいカオルは怪訝な顔をしたけど無視して支度をしていた。

「なぁ、話ってなに」
「先にご飯でいいじゃん」

引っ張るなよ、と相変わらずイライラした様子で部屋着に着替えている。

いつ言おうか悩むけど、イライラをピークにさせた方がびっくりするかな…なんて思うから言えない。
こういう所は変われないしイライラさせて楽しむところをカオルは嫌う。

よく一緒に住んでるなって思うけど、本当に不思議なもんだと思う。
仕事で疲れて帰ってきているのに帰ってからもあたしにイライラさせられて舌打ちが頻繁に聞こえる。

カオルの良い所は舌打ちしながらも問い詰めることなくあたしのタイミングで話を聞いてくれる所。
それがあたしを調子づかせることもわかってるはずなのにかなり心の広い優しい男だと思う。
それかマゾか。

そんなことを考えながらもいつ言おうか考えてるわけだけど、いつ言っても一緒だよね、と思い直した。

「ご飯よそう?」
「あぁ」
「焼き魚にお醤油かけるよね?」
「あぁ」
「子供できたよ」
「あぁ…あぁ?!」

この流れで報告したら口を開けて固まってしまった。

「カオル?」
「あぁ」
「ご飯、用意できたよ」
「お前な…」

呆れた口調であたしの傍まで来たカオルは支度をするあたしの動きを止めて椅子に座らされた。
なに?と見上げると「お前はバカか」と盛大な溜息を吐いた。

「なんでよ」
「なんでよ、じゃねぇよ。さらっと会話にねじ込んでくんな」
「ねじ込んでないよ。超キレイに入ってたよ」
「そういう意味じゃねぇよ。大事なことだろ。流すような場所に入れてくんな」
「でも気づいたじゃん」
「ちゃんと報告しろ」

両肩を掴まれて見下ろされて何も抵抗が出来ず、しかも稀に見る真剣な瞳だからふざけられそうにない。

「カナ」
「わかった。今日病院に行ったら多分カオルとの子がお腹にいたの」
「“多分”ってなんだ」
「冗談じゃん。カオルの子だってば」
「お前、言っていい冗談と悪い冗談があるだろ」

さすがに冗談が過ぎたのか眉間にシワが寄って本気で怒り始めるな、と身構えたけど、少し考えて苛立ちは隠しきれてないけど大きく息を吐いて自分を落ち着かせていた。

「子供できたの、嬉しい?」

タイミングを見計らい訊ねてみると目を大きくして少し躊躇いながら「当たり前だろ」と言った。

「でもなんか...目が泳いでる」
「そりゃ泳ぐだろ!子供だぞ?!」
「すごい動揺してる?」
「そりゃするだろ!しない方がおかしいだろ?!」

見た目以上に動揺していたらしいカオルはガンガン目を泳がしながらあたしの目を見たり、あたしのお腹を見たりと完全にパニクっていた。
それでも少ししたらあたしをまっすぐ見つめてからキスをしてくれたから、どうやら喜んでるらしい。

その後はやっぱり報告のタイミングが悪いと怒られてしまった。

大事なことはちゃんとしたタイミングで言うのが普通だろ?!とか、お前が普通じゃなかったら俺の子はまともに育たないだろ!とか言うから「カオルの子じゃないよ、あたしとカオルの子だよ」と言うと「だよな」と冷静に言った。

「なんなの、嬉しくないの」

首を傾げて見上げると「嬉しいに決まってるだろ!」とまた怒られた。

「そんな怒らないでよ」
「怒らせるお前が悪いんだろ」
「怒らせてないしー」

数秒間睨み合って、結局いつものように笑い合う。
そして、あたしからカオルに抱きつき、幸せを噛み締めた。

実は超嬉しかったのはあたしの方で、早く言いたくてしかたなかった。
予想も予定もしてなかったし現実問題を考えれば悩むことばかりだけど今は幸せでいっぱいすぎる。

「超嬉しいんだな」

からかうように言われて「嬉しいよ」と言うと優しく笑ってくれる。
幸せだな、と心から思える。

それからは何事もなかったかのように夕飯を食べて、いつも通りの夜を過ごしたけど、少し違ったのは寝るときにカオルがあたしのお腹に触れたこと。

これからは二人じゃなくなるんだな、と嬉しいのか寂しいのかわからない表情で言ってた。

優しいパパになってくれるかな?と心の中で問いかけながらいつもよりくっついて眠りについた。





…END…
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