時刻は午後九時を少し過ぎたころ。

私、水樹稀華(みずきまれか)は銀座の某高級クラブで、ぎこちなく接客をしていた。

頭上に輝く煌びやかなシャンデリアも、高級感あふれる赤いソファも。そして身にまとっているいやに露出の多いエメラルドグリーンのドレスも、本来自分には縁のないもの。

だって私は、短大卒業と同時に青森の田舎から出てきて、昼間は都内の中小企業で事務をしている地味OLなのだ。

そんな自分が、この場所にふさわしくないということは、よーくわかっている。わかっているけれども!

どんなに居心地が悪くたって、慣れない仕事だって、頑張らなきゃいけない理由が、私にはあるのだ。


「稀華ちゃん、これから接待で来るお客さん、大企業の御曹司だからね。気に入られたら儲けもんよ」


ひと仕事終え、次の出番まで待機している間に、先輩の美鈴さんがこそっと教えてくれる。

美鈴さんは職場でも先輩だけれど、実は青森から一緒に上京してきた地元の先輩でもあるため、東京での友達なんてひとりもいない私の、頼れる姉貴分だ。


「おんぞーし……青森にはいなかったですね」

「ふ、そうね」


他愛もない話をしていると、にわかに店の入り口がさわがしくなった。

来店したのはスーツ姿の男性四人。その姿を何気なく目で追っていると、一番背の高い男性と目が合った。

身長は百八十くらいかな。そして彫刻のように整った目鼻立ち、横に流したダークブラウンの前髪。

……あれ? あの人どこかで会ったことがあるような。