溺愛ペット契約~御曹司の甘いしつけ~


記憶をたどっている間に、なぜかその男性がつかつかとこちらに向かってきた。

戸惑っている間に目の前まで来た彼は近くで見てもやっぱりイケメン。

思わずドキッとするけれど、凛々しい眉が中央に寄って、怖い顔をしている。

え? え? 私、何か悪いことした……?

状況が呑み込めず視線を泳がせる私に構わず、彼はがしっと私の腕をつかんで口を開いた。


「こんなとこで“売れっ子ミュージシャンの婚約者”が何やってんだよ」


地響きのような低音ボイスに、怯えながらもはっとした。

この人、あの時のムカつく男じゃない……!

私はひと月ほど前にとあるバーで起こった出来事を思い出し、当時の腹立たしさを蘇らせる。

お酒に酔っていたからハッキリとは覚えていないけれど、この男と“夢”をめぐって口論になっていやな思いをした記憶だけはある。

美鈴さんをはじめとする周囲の同僚たちが異様な視線で見守る中、私は男を睨み返して言い放った。


「売れっ子になるのはこれからです! だからこうして彼のために必死でバイトを!」

「へえ。そんな状態でよく俺に説教ができたもんだな。要はヒモ男を養ってるわけだろ?」


鼻で笑われて、私は一気にヒートアップする。

なんですって~!? 確かに彼に収入はないけど、夢を追いかけているんだから仕方ないじゃない!


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