promise

「ほいっ。お待たせ」


「ありがとうっ」



あの頃。
パティシエの修行をしていた想羽くんは、今じゃ人気ケーキ屋さんを構えるカリスマケーキ職人。



「それ、光来専用だから」



予約とそうでないのと……とにかく人が溢れかえっている店とは反対に、静かな裏口から想羽くん特製のクリスマスケーキを受け取る。



甘い香りの零れる箱を大事に抱えたわたしに、



「なぁ、光来」


「んっ?」


「……いいんだぞ? 光来は光来の幸せ見つけても……」



真剣な顔をしてポツリと小さく呟いた。



それにただ静かに首を振る。



そんなわたしに想羽くんは困ったように眉をひそめ、そっとかじかんだ右手を取った。



「……アイツも罪作りだな。全く」



ケーキと同じ甘い香りのする想羽くんの手の上で、くすんだ薬指のリングが青白く光っていた。



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