蜜月なカノジョ(番外編追加)

誰か嘘だと言って



「うぅ゛っ、えぐっ、ぐずっ…」

マンションを飛び出してどれくらい経ったのか。気付けば辺りはすっかり暗くなっていた。
ずぶ濡れの状態で着の身着のまま飛び出してきてしまったせいで、生乾きの全身は夜風に吹かれて凍えるように冷たい。ガタガタと震える体を抱きしめながら、そんな私の中を占拠しているのは「どうして?」という思いだけだった。

ナオさんが……男だった。

とても信じられないこの現実に、何を考えればいいのかすらわからない。

泣きながら何度も何度も考えた。これは悪い夢なんじゃないかって。
さっき見たのはナオさんのそっくりさんか何かで、もしかしたら双子のお兄さんがいるんじゃないか。実は私に内緒で彼氏と一緒にお風呂に入っていて、私がいるとは思わなかった彼が先に出てきてしまったんじゃないか。
微かな可能性を求めてありとあらゆることを必死で考え続けた。

…けれど、どうやっても最後に辿り着くのは目の当たりにしたのは紛れもない「現実」なのだということだけ。

「うそ…でしょぉ…? ど…して、どうしでえぇ~~~~…!」

人はこんなに泣けるんだとびっくりするほどに涙が止まらない。すれ違う人が全身ひどい有様の私を見て眉を潜めているけど、そんな視線なんか全く意識に入ってこないほどに頭の中は真っ白だった。

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