シンデレラLOVERS
キスと涙

「ねえ、やり直そうよ?」



思ってもみなかった静葉からの提案に、俺の頭は上手く回ってくれなかった。


静葉を見返したい一心で、今まで経験値を積んできたんだ。

俺にとってこんな申し出は願ってもないチャンスだった。



本当ならすぐにでも二つ返事で頷いてしまいそうなのを咄嗟に抑えたのは、たった今否定したばかりの傍らの一ヶ月彼女のことが頭を掠めていたからだ。


居たたまれない空気が漂う中、


「水原さん」


「えっ……」


それを打ち破ったのは意外なヤツの日菜琉を呼ぶ声だった。


気がつけば隣に居たはずの日菜琉は俺の斜め後ろに居て。
どこからともなく現れた紘也が彼女に向かって声を掛けていた。


俺でなく日菜琉に、だ。


俺だけでなく、もちろん声を掛けられた日菜琉も驚いている。


そんな空気の中で、


「ちょっと付き合って」


何食わぬ顔でこう言って、日菜琉の手を引いた紘也は門の方に向かって、俺と静葉の傍らを横切ろうとしている。


「ちょっと! 城崎くん?」


「紘也っ!?」


いきなりのことで状況を掴めていない日菜琉が、慌てて紘也の背中に声を掛けている。


俺も紘也の行動の意図がわからなくて、続けて呼びかけるけど紘也の足は止まる気配がない。


「紘也! おいっ!」


「おまえは……芳川と話あるんだろ?」


語気を強くして呼び止める声でようやく立ち止まった紘也は、振り返った俺の顔を冷たく睨み付けて吐き捨てるみたいに呟いた。


紘也は中学からの親友。


もちろん静葉のことも、俺たちの間に何があったのかも全部知っている。

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