恋ぞつもりて、やがて愛に変わるまで。


「私が生まれて初めてなりたいって、思えた自分に出会えたの」


この夢を大事にしたい。やっと見つけた、なりたい私の姿──未来だから。

それに私は、景臣先輩の人生の一部を犠牲にしてここにいる。

だから、彼のためにも誰よりも幸せにならなくてはいけないのだ。


「お願い、私の大切な家族であるふたりには、応援してほしいの」


こうして、両親に真っ向から意見を言ったのはこれが初めてだ。

今までは条件付きでやりたい事をさせてもらったり、言い逃げするようにして自分の意見を押し付けていた。

けれど、今回はちゃんと家族に向き合いたかった。

できれば景臣先輩や雅臣先輩のように、支え会える家族になりたい。

彼らのお互いを思い合える関係に、私も家族と拗れたままではいけないと思ったから。


「……そうね、あなたが心からなりたいものなのよね……」


先に折れたお母さんに、お父さんは「母さん!」と咎めるように叫んだ。


「でも、今まで清奈が何かをしたいって言った事、高校を決める時以外にはなかったでしょう?」

「それはそうだが……」

「私達は知らず知らずのうちに、清奈から望む事を奪ってしまってたんだわ」


お母さん……。

そう言ったお母さんは、少し寂しそうに私を見るの曖昧に微笑む。


「何がきっかけかはわからないけど、そんな自分の環境に疑問を持って、ちゃんと夢を見つけられる子よ。この子は私達が過保護にしなくても、真っすぐ歩いて行ける」


お母さんの言葉が、胸をジンとさせる。

いつも、ふたりは私の事なんて愛していないのだと思っていた。

ただ、思い通りに生きる人形が欲しかっただけなんだって、そう思っていた。

けれど今お母さんから放たれた言葉から、私の気づかない所で見守ってくれていた事が伝わってくる。



「それは、そうかもしれないが……」


言いよどむお父さんに、お母さんは「あなた、応援してあげましょう」と言ってくれた。


「お母さん……ありがとう」


伝えたら、ちゃんとわかってくれた。

最初から諦めて、意思を伝えないうちは理解なんてしてもらえない。

自分から発信していく事が、大切だったのだ。

私はお母さんに夢を認めてもらえた事が嬉しくて、顔をほころばせる。

そんな私とお母さんの顔を見比べて、お父さんは「はぁっ」とため息をついた。


「……仕方ない、やれるだけやってみろ」

「お父さん!」

「でも途中で弱音を吐くようなら、すぐに辞めさせる。有無を言わさず、医者にするからな」


そう言ったお父さんは不満そうだったけけれど、そのぶっきらぼうな言葉の裏には私へのエールがこもっているように思えた。


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