朝8時の校内はまだ静か。人気のない階段を4階まで上り、静かな廊下を歩く。


各クラスが並ぶ3階までとは違い、家庭科室やPCルームなど、専門教科で使う部屋が連なるフロア。朝一のキンと冷えた空気を肌に感じながら、灰混じりの雲が覆う空を窓越しに見上げる。


憂鬱で息が詰まる、金曜日の始まりだ。


私は廊下を突き進むと、最奥でひっそりと佇む教室の前で足を止める。そして、その部屋の札を見上げた。


「国語科準備室」だなんて、全く必要性を感じない教室。恐らくそんな部屋があることすら知らない生徒も多いだろう。


でも、私の高校生活は、ほぼこの部屋だけで成り立っている。


指先で触れた引き戸の金属。いつも以上に冷たく感じるのは、今朝が今週一番の冷え込みだからか。少し力を加えると、かじかんだ指先に鈍い痛みが走った。


いつも施錠の為されていない「国語科準備室」に、今日もすんなりと入室した。廊下よりも寒さが和らぐのは、壁が厚く覆われているからだと思うのだ。


両側の壁を埋め尽くす本棚にずらっと並ぶ、古典文学から現代の大衆小説まで数多くの書籍。窓際に設置された教卓には整列する沢山の辞書。「国語科準備室」というだけのことはある。


私は、中央に置かれた楕円形の木製テーブルに鞄を置いて、対になっている椅子へ腰掛けた。ここが私の定位置だ。


スカートを通り越し私の肌に伝う、硬質な冬。


はぁ、と疲れを息にして吐き出すと、そこに昨夜の名残がある。私はもう一度短く息を吐くと、雑に立ち上がった。


教卓まで行き、並んだ辞書の隣にある缶を開ける。


そこには、子どものご褒美にでも配られそうな色んな種類の飴が沢山。私は一つ取り出すと躊躇いなく包装を破き、口の中へ放り込んだ。


ちょうどその時だ。国語科準備室のドアがゆっくりと開いた。