たどり着いた先はビジネスホテルの一部屋だった。


建物の前で一度足を止めると先生は「心配しなくても指一本触りませんよ」と子供には興味ないとでも言いたげに鼻で笑い、私は気持ちの悪い想像を見透かされたようで羞恥に見舞われた。


「お茶いりますか?」


部屋の入り口に立ったまま首を横に振る。


狭い部屋には白いシーツを纏ったシングルベッドが一つ。小さなカウンターにはポットが一つ備えられているだけ。


殺風景な冷たい部屋は、現実と幻想の間のほんのつかの間の休息地。朝には戻らなければならない現実を控えながらも、自然と心が鎮まる気がした。


先生が二歩、三歩と私へ近づく。詰められた距離の分だけ鼓動が冷静に速度を上げる。この人は大丈夫なのだとわかっていても私の足は勝手に後ずさる。


ついに背中がドアの硬い感触をとらえたとき、先生の足は歩みを止めた。


「コート下さい」


手を差し出す先生と私の間には1メートルほどの空間。


恐る恐るコートを脱ぎ手渡す。その時、私は半歩だけ距離を埋めた。上を向いていた手のひらが店を出た直後に出されたそれと重なって見えたからかもしれない。