彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
Stay with me
Stay with me  ~康史~


もう離したくない。
お互いの気持ちの確認はできた。
もう離すつもりはない。

こっちに滞在できるのは1ヶ月。
副社長という立場にありながらこのプロジェクトだけにかかりきりになっていられるはずがない。
それでも、この1ヶ月という時間がもらえたのは兄である社長と信楽焼のタヌキ部長のおかげだ。
週に2日程は東京に戻るが、あとは早希のいるS市にいられる。
この間に早希との仲を確実なものにしていかなくては。

できれば一緒に連れて帰りたいところだが、家族を大切にする早希がすぐに納得するかどうか。
必要なら早希の家族ごと東京に連れて帰るか・・・と思いつめたこともあったのだが、どうやら早希の家族は早希を俺のもとに送り出してくれるつもりらしい。

早希のご両親の厚意で度々早希の自宅に招待され夕食を共にし、そのまま泊まることもあった。
早希が俺のホテルの部屋に泊まることもあった。
母親と姉に「今夜は帰ってこなくていい」と言われたとか。早希が顔を赤くしながら教えてくれた。
家族からの公認の付き合いになって俺と早希の距離は近付いていた。

早希も俺と一緒に過ごすことに慣れてくれてきているようだし、こちらに滞在していられるのは残り10日余り。
そろそろ本格的に将来の話をしたい。

そんな事を考えていたら、タヌキ部長から声をかけられた。THの高橋社長が呼んでいるという。
タヌキ部長と共に社長室に向かう。

「神田部長、何か企んでませんか」
「ん?イヤだなぁ、企むだなんて」
ニヤニヤ笑うタヌキが怪しすぎる。



社長室では高橋社長と神田部長から俺に思わぬ提案がされた。

またもやタヌキの策略だ。
全く油断がならないタヌキだ。いつから考えていたんだか。おそらく早希の退社手続きの時には考えていたんだろう。
だが、今回は有難くその提案に乗ることにする。

「だから言ったじゃないですか。みすみす可愛い早希さんを手放す気はないって」
タヌキは不敵に笑う。

「神田部長、さすがに妊娠したら早希は家庭に入ってもらって俺だけのものにしますからね」
釘を刺しておいたが、「早希さんが大人しく家庭に収まるのかなー」などと言っている。

ふざけるなよ、早希は俺のだから。
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