彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~
「金曜の創立記念パーティーの日にあのホテルで2人を見たの。仲が良さそうだった。だから、仮に始まりはそうだったとしても今2人はうまくいってるし、妊娠してるんだから邪魔者はどう考えても私」

「え、パーティーを途中で帰ったのってそういうこと?」
由衣子は唖然とした表情をしてビールを飲む手を止めて私を見た。

うん、と私は苦笑してビールのジョッキを空けた。

「信じられないわ、早希の元カレ」
由衣子も一気に飲み干してお代わりを頼んだ。

「私もね、ただ別れたいって言われただけなら納得できなかったと思うの。でも、相手が『妊娠してる』って聞いたらサーッと醒めたよ。仮にあっちと別れて私とやり直したとしてもあっちが妊娠した事実は変わらないし。
ありえない話だけど、稔は私と別れないで里美が生んだ子供を認知して私たちが元通りなんてありえない。ぞっとする。それはもうあっちだけの問題じゃなくて私も生まれてきた子供も傷付く」

だから、別れ以外に選択はない。

「はぁー。早希のこの週末ってドラマみたいな展開だったのね。
でも、そうならそうで昨日私に連絡してくれたらよかったじゃない。早紀ったら、ショックで飲み食いも睡眠もろくに取れてないんじゃないの?そんな顔してさ」
由衣子は少し責めるような口調になった。

「確かに、この週末はさすがに食欲なくて」
力無く笑った。

「でも、さっさと私の部屋にある稔の荷物を片付けたかったの。段ボール箱に詰め込んで昨日のうちに着払いで送り返してやったわ」

私がそういうとパチパチと手を叩いて由衣子はにっこりした。

「さすが、早希。思い切りがいいところが早希の長所だもん。よくやった。今夜は飲もう!」
 
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