あの人が今どんな表情をしているのか怖くて見ることができない。

「早希さん、顔色が悪いです。大丈夫ですか」
林さんが私の正面に向かい両腕を支えるように掴んで顔をうかがう。

私は相当顔色が悪くなっていたのだろう、支えてくれている林さんの腕の力がの強くなった。

「どうしました?」

「林さん、俺が代わります」

副社長の声に私はビクッとした。

副社長が私の隣に立つ。私の背中に手を回し身体を支えるようにして数歩歩いて用意されていた椅子に私を座らせた。

店員さんに温かいお茶を頼むと、副社長は林さんに向かって
「林さんは仕事に戻っていいですよ」
と言い出した。

俯いていた私だが、思わずそのひと言で顔を上げて副社長を見てしまった。

そこにはあの夜に見た優しいあの人がいた。
やっぱりあの人だ。
うっすらと笑みをうかべて私を見ている。

また心臓が跳ね上がるような感覚がしてドキドキしてしまい、慌てて目をそらし林さんを見た。
帰らないで。二人きりにしないでと目で訴える。

私を見て困った顔をして「いえ、あの。早希さん、大丈夫ですか」と聞いた林さんだけど、
また副社長が「俺が責任もって送り届けるから、大丈夫。林さんはまだ明日の契約の件で社長のフォローがあるだろ。社長の方をお願いしますよ」
としっかりとした口調で言ったから、林さんは何かを感じとったのだろうか。

林さんは涙目ですがる私を残して帰る決断をしたようだった。

「それでは、ここは副社長にお願いします。何かありましたらいつでもお呼びください」
そう言い残して出て行っってしまった。