副社長は本当に忙しく働いている。社長が心配するはずだ。
私と会うのは木曜日か金曜日の夜。
もちろん毎週ではない。夕食を共にすることもない。21時過ぎにあのBarでお酒を飲み、話をするだけ。

それが木曜日であれば翌日も仕事だから少ししか会えないが、金曜日であればゆっくりお酒を飲み、タクシーでアパートまで送ってくれる。

いつも当日のお昼休みにメッセージが届く。

『今夜どう?』

例え残業があっても21時ならなんとかなる。
残業があればそのまま向かい、定時退社なら一度帰宅し夕食を食べシャワーを浴びてから行くこともある。

私は副社長の息抜きのための存在のようだ。
あれから肌が触れることはない。ただお酒を飲んでたわいもない会話をするだけ。
私の髪や手に触れるどころか肩が触れることもない。

自分の会社の女子社員なんだから当たり前だ。
私はどこかで勘違いをして期待していた。
副社長が私に好意を抱いてくれているとか、この先もっと親しい関係になれるとか。
やっぱりバカな女だ。身の程知らずもいいところ。

私の中で副社長の存在はどんどん膨らんでいる。
毎日昼休みにスマホを取り出しメッセージがないかチェックしてしまう。
これを恋と呼ばずに何というのだろう。


今日は木曜日。副社長からの連絡はなく私も由衣子と約束をしていた。

退社後にいつもの居酒屋バルに直行する。
由衣子はまだ来ていない。

そわそわと落ち着かなかった。
私は退社する時に見かけた副社長の姿を思い出し胸がざわついているのだ。

エレベーターを降りた途端に目に入ったのは、同期で秘書課の田辺薫の腰に手をかけるようにエスコートしながら会社を出ていく副社長の姿だった。

薫はいつものビジネススーツではなく上品なワンピース姿で堂々と副社長の隣を歩いていた。
そして二人は高級な社用車に乗り込み去っていったのだ。

仕事なのかプライベートなのかはっきりとはわからないけど、でもあれはプライベートだと思う。

薫は副社長の秘書ではない。
副社長の秘書は私の4期上で既婚の佐伯さんという超美人だったはず。