彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

「抽選会より早希の方が大事だよ」

本当に心配してくれる由衣子には申し訳ないけど、とにかくひとりになりたかった。

「うん、ありがと。でもすぐに寝たいからやっぱりひとりで帰るよ」

そんなやりとりをしていると、会場が薄暗くなりステージが明るく照らされた。どうやら大抽選会がはじまるらしい。
由衣子に「ごめん、抽選会よろしく」と言って無理やり笑って会場を出た。

そのまま急いでタクシーに乗りこみ、またスマホを見るけど、稔からの折り返しの着信はないし、メッセージも既読になっていなかった。

タクシーの窓から見える夜の東京の景色は私の心と反対でキラキラと輝いている。

大小の色鮮やかな光の粒。

今頃、稔と里美はホテルの部屋なのかも。
考えるだけで鳥肌が立ち吐き気がする。

明日は私の誕生日。

一昨日にはいつも通り稔からメールがあった。

先ほどとは違うホテルで食事をする約束になっているけど、彼はどんな顔をして私と会うつもりなんだろう。

闇に浮かんで光る東京タワーがチラッと見えた。

地方出身者の私には東京タワーの夜景は都会の象徴。

昼間にはあまり感じない高揚感がある。
夜の闇とイルミネーション。

そのイルミネーションに夏バージョンと冬バージョンがあるのを知ったのは東京で暮らすようになってから。

仕事帰りに夜の東京タワーを見ると、ああ、憧れていた都会で生活する大人のひとりになったんだなと思う。
スカイツリーも素敵だけれど、私は温かみを感じる東京タワーの方が好き。

でも、
今見える東京タワーはどこか私を拒絶するような遠い存在に感じる。

近くて遠い夢の国。

やっぱり私は偽物の都会人だ。

いつまでたってもこの街の一部にはなれそうにない。
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