彼女の居場所 ~there is no sign 影も形もない~

*********


早希の手がかりはなく日にちばかりが過ぎていた。

良樹のところにも連絡は無いという。

やはり興信所を使おうかと考え始めた頃、社内で新しいプロジェクトを立ち上げることになった。
責任者は副社長の俺、早希のいた第三営業部から神田部長指揮の下、高橋良樹達数人がチームを組むことに決まった。

会議が終わると、神田部長が脳天気な笑顔で俺の側に来た。

「早希さんの事で思い出したことがありますよー」

俺はすぐさま神田部長に向き直った。
「何を、ですか」

「そういえばなんですがー、前にいきなり取った有給休暇の理由が母親の手術だって言ってましたね」
「手術ですか?それはどんな?」 
「そこまでは聞いていませんが、命にかかわるような病気ではなかったらしいです」

何だよ、そのプチ情報。
でも、そんな話を早希からは聞いていない。
母親が病気だったのか。いや、そもそも早希は仕事関係の話はしても自分の話をあまりしなかった。

「すみません、大した情報じゃなくて」
「いいえ」

その後も会議の折りに触れタヌキは俺に話しかけてくる事がある。
そっと寄ってきては早希のプチ情報を話していくのだ。

このタヌキは俺に嫌がらせか何か企んでいるんじゃないだろうか。

「お姉さんのご主人が亡くなってしまって残された小さなお子さんの世話が大変らしいですよ」

「お姉さんは第二子を妊娠中だそうです。ご主人が亡くなってしまって、これからどうされるんでしょう」

俺の知らない早希の家族背景。
確か、タヌキからの話では早希の父親が海外に単身赴任中、母親は手術、姉は夫に先立たれて子育てが大変。
早希の背負っていたものが見えてきた。

優しい早希の事だ、今は実家に戻っていると思って間違いないだろう。
しかし、実家の住所はわからない。

あ、いや、佐本さんから早希の実家はS市だと聞いた。
このプロジェクト、立ち上げは本社だがM市にあるうちの支社とS市にある関連会社との合同プロジェクトになる計画だ。

これがうまく進めば度々あちらに仕事として行く事ができる。
あちらに行けば何か早希の手がかりが見つかるかもしれない。早く、プロジェクトを軌道に乗せてS市に向かわなくては。

絶対に彼女を見つける。


< 89 / 136 >

この作品をシェア

pagetop