職場恋愛
「山野さんっ」


「んー?」


くるっと振り返った山野さんはまだ階段の途中なのにタバコを咥えていた。
火は付けてないみたいだけど気が早いな。


「シフトどっか変だった?」


「や、それじゃなくて…」


タバコを咥えたままポカーンと聞かれたけどそこじゃないんです。


「昨日はあんな帰り方をしてしまってすみませんでした。ちゃんとお礼も言わないまま…」


「あ、そっち?いいよいいよ、そんな」


タバコを口から離して手を左右に振った山野さん。


「ちゃんと帰った?」


「…………」


何気なく聞かれたけど、誤魔化すことはできなかった。


「あらら、帰ってないの?」


「帰ったんですけど、、『うちの子じゃない』って言われちゃって。航と…ほ、ほ、ほ………ほ………」


「あ、そう!ラブホね。おめでとう」


「声が大きいです!!!」


「ごめんごめん」


なんか…誰かと被るな…この感じ。
誰…かな。


「まぁまぁいいじゃん。そのまま同棲してゴールインっしょ」


この、軽い感じ。
誰かにすごく似てる。


「あ、でも、航に八つ当たりしちゃって。仲直りはしたんですけど…」


「あんな細っこいのコテンパンにしちゃえよ。あいつは俺とは違って優しいんだしさ〜」


山野さんは優しくないの!?


「あっ、てかごめんなさい。関係ない話しちゃって。おタバコ、どうぞ」


「ん。ああいうタイプにはただ甘えとけばいいんだよ。それ以上の愛が返ってくるだろうから。じゃ、また後で」


うん。誰かに似てる。
そっくりな誰か…。


誰だろうな…。




「どいてどいてどいてどいてどいて!ニコチン切れ!!」


突然後ろからものすごいスピードで誰かが降りてきた。

ビュンと私の横を通り過ぎたその人はきっと重症なニコチン中毒者なんだな。


さて、着替えに戻ろう。





ロッカーで着替えを済ませて國分さんを探しに行く。

事務所には誰もいなかったから家電の休憩室かな、とドアを開けたのが地獄の幕開けだった。
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