職場恋愛
side 佐久間


お疲れ顔の山ちゃんが今日はお泊りコースだそうでロッカーから自前のタオルケットを引っ張っている時、中ちゃんが休憩室で寺内さんの文句を垂れていた。

『なんでも人のせい』とか『俺は何も悪くない』とか『俺は家電じゃないのに』とか。

薄い壁で隔ててあるだけだから丸聞こえなわけだけど、中ちゃんの口がヒートアップするにつれて確実に山ちゃんの機嫌が悪くなっていると思うんだ。

俺の隣の隣の隣のロッカーで横顔しか見えないけど、溜め息ついてるし絶対、絶対今すぐ口を閉じた方がいい気がする。

こういうの、陰口って言うんだっけ?
恐らく山ちゃんはそれをとても嫌う。
閉店後に怒らせるとか、絶対やめてね、中ちゃん。



「おかしいっすよね?普通に。家電の人に頼まれた物を持って行ったのにリーダーに違うって言われてなんで俺が寺内さんに怒られなきゃいけないの!?ってなりません?指示を出した家電の人が悪いのに!」


「それ誰だったの?」


「えっ…と…名前忘れちゃったんすけど…俺よりも長い人っす」


「沼田じゃね」


「そーーそれっす!」



家電のしまがいる前で家電の陰口言ってるのもすごい。もっと人選べ…。
てか、収まる気配がない…。本気でやばいって。


パタンとロッカーが閉まる音が聞こえても中ちゃんの口が止まることはなかった。



山ちゃんがロッカールームから休憩室に移動すればさすがに空気読むだろ、と最後の希望を託したが、残念ながら山ちゃんにまで同意を求めてしまっていた。



「酷くないですか?どう思います?全部俺のせいにされたんですよ?」



あーあ。ダメだこりゃ。

それ1番やっちゃいけないやつ。
中ちゃんはそういうとこあるからな。



「はぁ。違うなら違うって言えばよかったんじゃねぇの」


ほら見ろ!!テンションと声のトーンがマックス低いから!!
山ちゃんに同意を求めてはいけません!!

正論で論破されるだけだから!!2年目なんだから分かれよ!!ボケ!!



「1回は言いましたけど…」


「はっきり?俺じゃないから沼田に言えってちゃんと言ったのか?」


「い、いえ……そんなにはっきりとは…」


やらかしたなー。うん。


「だったら認めたお前が悪い」


うん、怖い。これだからうちのリーダーは。


「認めたわけでは…」


「否定しなけりゃそれは肯定と同じ」


「だって…怖いんですもん」


その辺にしとけってぇ!!
もうバカ!アホ!ボケ!


「怖くても違うもんは違うんだから堂々としてろ。じゃなきゃこっちも庇えない」


ま、でも、さすがはリーダーって感じ。
最後はしっかりフォローしてくれるんだもんな。


「う…ごめんなさい…」


「上の人間に恐怖を感じるのは普通だしむしろそうでなければ成り立たないけど、だからと言ってなんでも言われ放題でいいことはない。勤務時間内なら俺が片付けてやるからそれまでは勝手に言わせておけ。ただ、それまでは強く構えて堪えてろよ」


男女問わず部下を守ってくれる人。
口は悪いし遠慮なしにズバズバ言うけど、それでもこの人はすごいんだと俺にも分かるくらいの人だ。
これが、うちのリーダー。

大尊敬です。



「で、勤務時間外にぐちぐち言っても何も変わらないんだから同情を求めてるだけなら俺がいないところでやってくれ。

今の俺に対する何かがあれば、今言え」


「いいえ、何もありません。これからは気を付けます。すみませんでした」


「気を付けるんじゃなくてやめろ」


うぅ、怖っ。


「はい……」


中ちゃんも意気消沈だな。
落として、上げて、落としたな。うん。


「これが俺のやり方だから気に食わなければやめてもらっていい」


何度か聞いたことのあるセリフ。
これは相手が反抗的な目をした時にのみ言われるものだ。

まぁ、俺が知る限りこのセリフを言われてやめた人はいないけど。
みんな後々山ちゃんの素晴らしさに気付くからね。


「態度に出すくらいなら口で言え。ったく腹立つなぁ」


えっ、新展開。どんだけ反抗的な目してんだよ。山ちゃんはキレやすいけど、、話通じるしむやみやたらに怒る人じゃないのに。
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