恋に涙を花にはキスを【コミカライズ連載中】
誘惑したい
暗闇の中、月明かりだけ。
風に枝が揺れる音。


首筋の肌に、彼の感触をひたすら覚えさせられた。


熱い息が触れ唇が吸い付く。濡れた舌が撫でる。
波のように身体の中心を通り過ぎていく熱に自然と息が上がり、耳朶に噛みつかれた時は、大きな悲鳴が出かけて慌てて口元を手で覆う。


耳、弱い?
そう言われたので、きっと私はそうなんだろう。


他に知らないからわからない。
戸惑ったのは、自分の感情の変化だ。


あんなに、気持ち悪いだとか嫌だとか思っていた行為が、それに準ずるものが。
なぜか、少しも嫌じゃない。
ただただ、甘く変化する自分の声が恥ずかしかった。



「……部屋まで送る」



二人でどれだけの時間、抜け出していたことになるんだろう。
暗闇からホテルのロビーに戻り、私の顔を改めて見た東屋さんは宴会場には戻るなと言い、部屋の前まで送ってくれた。


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