社内公認カップルの裏事情 〜ヲタクの恋は攻略不可能?〜
5.掟を守るためのキス


「───河合」

規則正しいリズムでコピー機により印刷されて行く見積書。それをただぼうっと眺めていた私のことを突然誰かが呼びかけてきた。

あまりにも意識が薄れていて、つい「わっ」と声をあげると、声をかけてきた本人はくすくすと肩を揺らして笑い出した。


「やっぱり、ぼうっとしてたか」

「清水か……突然驚かすのやめてよ」

心臓止まるかと思った、と冗談混じりに私が言うと、彼はまた更に笑って肩を揺らし出す。

「いや、なんか心ここに在らずって感じだったから心配でさ」

何かあった? と付け足して優しい眼差しを向ける清水。

こんなことを自分で言うのは何だけれど、清水は私よりも私のことをよく見てくれているような気がする。

本当に、どうして私は清水を好きにならなかったんだろう。


「心配ありがと。ちょっと疲れてぼうっとしちゃってただけだから大丈夫」

「疲れてるってことは、大丈夫じゃないだろ。だから頑張りすぎは禁物だって言ったのに」

「はは、清水ってば母親みたい」

コピーされた用紙を手に取り、「ありがとね」と一言伝えると私は清水の横を通り過ぎデスクへと戻った。

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