その人を見た瞬間、ローゼは自分の体にピリッとした感覚が走るのを感じた。

彼女の目をとらえて離さないのは、金髪のフリード=クレムラート伯爵の陰になるように一歩引いた位置で佇んでいるブラウンの髪の側近だ。
金髪碧眼の美丈夫であるフリードに対し、彼は決して目立つ容貌ではない。
背はフリードよりも少し高い。ブラウンの髪、それより深いブラウンの瞳が整った顔を隠すように暗い印象を与える。
なのにローゼは、あんなに憧れた伯爵夫妻よりも、彼に見とれていた。

ローゼを背中に隠すようにして、壮年の執事であるアントンが一歩前に出た。


「お帰りなさいませ、フリード様。王宮はいかがでしたか」

「ああ。エミーリアがまたやらかしてくれた」


フリードは楽しそうに肩を揺らしながら、アントンに頷きかけ、上着を預ける。彼の隣では、奥方のエミーリアが頬を膨らませていたが、気品のある顔は少しくらい歪んだところで、愛嬌が出たにすぎなかった。


「好きでやったんじゃないわ。ただ、あんまりおいしそうだったからあなたにも食べさせようと思ったのよ。そしたらその、ちょっと躓いただけで」

「……大体、何があったか想像がついてまいりました」


アントンが咳払いをし、側近のディルクへ視線を送る。彼は落ち着いた表情で、「大丈夫です。エミーリア様に対しては、おおむね皆様好意的です。兄君のギュンター様がうまくフォローしてくださったのが良かったのでしょう。第二王子にはお詫びと称して蜂蜜を送る手配をしておきます」と続けた。

アントンはホッとしたように息をつき、「ではベルンシュタイン伯爵家にも送りましょう。お世話になったようですし」と頷いた。

そしておもむろに、手を広げて後ろに控えるローゼを伯爵夫妻に見せた。

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