ディルクは気絶したローゼを抱きしめながら、あたりを見渡した。
ローゼを休ませてやりたいが、クルトと呼ばれる花農家の男がやがて気が付き逃げられても困る。
誰かが通りかかってくれたら……と思ってみていると、しばらくして屋敷のほうから声が聞こえてくる。


「ローゼ、いるのか?」


その声はフリードのものだ。ディルクはホッと息を吐き出し、「フリード様、ここです。早く来てください」と声を張り上げる。
近付いてきたのはフリードだけではなかった。ギュンター=ベルンシュタインが隣を悠々と歩いている。
ローゼを抱きしめているディルクを見つけ、にっこりと微笑んだ。


「おや、俺たちより先にナイトが参上していたようだね」


フリードのほうは心配そのものといった様子で、ふたりのもとへ駆け寄ってくる。


「よく見つけたな、ディルク。ここは庭をぐるりと回るか、使用人通路じゃないと抜けてこられない場所らしいぞ?」

「フリード様たちこそ」

「ギュンター殿が、ローゼを見知った人物がもし居るとすれば、花農家時代以外にないというから、使用人を中心に聞き込みをしたんだ」

「なるほど」


エミーリアの兄上とは思えぬ冷静沈着ぶりを見せるギュンターに、ディルクは感心する。
そして、簡単に今の状況を説明する。


「そこに倒れている男が、ローゼに乱暴しようとしたのです。私が駆け付けて、ことなきを得たのですが。……その、クラウス様には謝らなければならないかもしれません」

「どういうことだ?」

「生け垣を一部壊しました」

「はあ?」


ギュンターとフリードはそろって生け垣のほうを振り向き、破壊され見通しが良くなってしまった生け垣に目を向けた。


「……まあ、クラウスからの嫌味くらいは覚悟しておくんだね」

「いや、お前の行動は俺の責任だ。気にしなくていい」


双方の返事を聞いて、ディルクは、やはりフリードに仕えていて良かった、と内心で頷いていた。

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