マドンナリリーの花言葉
12.そして愛を語ろう



それから数時間後、一行は子爵邸の別邸となるエーリヒの屋敷にいた。
アンドロシュ子爵は医師による手当てを受けたが絶対安静の状態だ。二階の寝室に寝かされ見張りをつけられている。
侍女のゾフィーと庭師のヤンは今後の証人になるということで別室に捕らえられていた。


応接室では、今日の顛末を聞いたエーリヒが、ほうと感嘆の息を漏らす。


「こんな近くでそんな捕り物劇が行われていたとは……。では父の悪事はみんなバレたのですね」

「ああ。だが証拠らしい証拠は出てこない。騙された家は没落して家財道具もすべて人の手に渡っているし、投資先も倒産して同じような状態だ。綺麗に証拠が消えていくようなやり方を取っているんだ。子爵はなかなかに賢い」

「では」

「そちらに関しての処罰は難しいだろうな。だが、今回の件と九年前のドーレ男爵とクレムラート伯爵の事故については、解明できる。ふたりの証人の口を割らせられればだけどな」

「少なくとも庭師の男のほうは簡単そうだったよ。金を積めば嘘の証言でもしそうな男だった」


既にヤンと交渉済みのギュンターがあっさりという。


「では子爵家は爵位剥奪ですか?」


数々の下級貴族を陥れ、私財を奪いつくす。それは王国の利益を損なうものだ。アンドロシュ子爵が爵位を奪われるのは必然ともいえる。

エーリヒが顔を曇らせたが、クラウスは首を振った。


「協力者である君から爵位を奪うような真似はしないよ。そのあたりは俺が父上に手を回しておこう。君が子爵位を継承し、今の子爵は裁判にかけられる。牢獄か死か、……そんなところだろう」

「……ご温情感謝いたします」


エーリヒはクラウスに頭を下げたが、クラウスは苦笑しながらエーリヒの背中を叩く。

< 210 / 255 >

この作品をシェア

pagetop