マドンナリリーの花言葉

「ねぇ、ママ。教えてほしいことがあるの。昔このあたりを管理していた男爵家って……」

「なんだい、急に。ドーレ男爵家のこと?」

「そう。どうしてお家断絶になったのか教えて!」

「どうしてそんなことを知りたいの」


真顔で聞き返されて、ローゼは目を泳がせた。

ディルクには振られたようなものだ。もう調べる必要なんて……とは思うが、興味までは消せない。それに自分と似た女性のことも気になる。

答えないローゼにため息を吹きかけ、母は記憶をたどるように目を泳がせた。


「お家断絶になったのは、ドーレ男爵様が事故を起こしたからよ。領主様……今のフリード様の二代前になるのかしら。フリード様のおじいさまの馬車とぶつかって、領主様のほうがお亡くなりになってしまったの」

「えっ」


領主をひき殺してしまったとあれば、お咎めがないわけはない。相応の対価は払わされるだろう。
けれど故意ではないのだから、お家断絶というのは重すぎないだろうか。


「……大きな声じゃ言えないけどさ。伯爵様も男爵様も不倫旅行中だったらしいよ。だから奥方様が怒っちゃっておおごとになったっていうかね。まあドーレ男爵様も悪かったとは思うけど、伯爵様も大概だよ。……全く貴族の男なんてろくなもんじゃないよね。あたしは、あんたにそんな目に遭ってほしくないから、お屋敷仕えも反対して……」


母親が言葉を止めて、ローゼ越しに街道を眺める。馬の蹄の音が近付いてきて、ローゼも不審に思って振り返った。
するとそこには、数時間前に送ってくれた時と同じ格好のディルクがいたのだ。
< 27 / 255 >

この作品をシェア

pagetop