その日、クレムラート伯爵・フリードは、側近であるディルクには内緒で、義兄であるギュンター=ベルンシュタインとともに養蜂家のもとを訪れていた。


「このように、蜂蜜にもいろいろ種類があり、味も植物によって異なります。安定的に取れるのは……」


養蜂家の説明をギュンターは頷きながら聞いている。以前にも視察に訪れたことのあるフリードはそれを少し離れて眺めていた。


今、フリードはギュンターと蜂蜜の取引について商談を進めている。


【ベルンシュタイン家の持つ鉱山での採掘作業は過酷であり、労働環境改善のため、手軽に栄養の取れるなにかをずっと探していた】とギュンターから相談されたのは、つい二週間ほど前だ。
どうやら、エミーリアの粗相のお詫びにと送った蜂蜜が気に入ったらしい。

安定的に供給が可能なのか、仕事の合間に補給するための加工ができるか、など具体的な相談を受け、フリードは【ならば一度視察にお越しください】と返事を書いた。
それを受けての今日だ。


ギュンターは前のめりで話を聞いている。と、空からゴロゴロと不穏な音がしたのを、ギュンターの側近であるルッツは聞き逃さなかった。


「ギュンター様、早めに打ち切らないと雷雨になりそうですよ」


西の空には暗雲が立ち込めている。ギュンターは日帰りの日程を組んでいたので、雷雨で足止めを食っては困る。


「ああ。そうだな。しかし……」


ギュンターに視線を送られて、フリードはぎこちなく笑う。

今回の視察の日程はもともと別の日で調整していた。しかし、内密に日程変更をしたのだ。
【側近抜きで話したいことがあるからこの日でお願いできませんか】と指定したのはフリードであり、まだその話はできていない。

蜂蜜の取引の話が終わってからゆっくり、と思っていたので帰られてしまうのは都合が悪い。

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