愛すべき、藤井。


『藤井が藤井だから好きなんだ、私は』


その一言で、夏乃が俺の全てを受け止めてくれてるような気がして、胸がジーンと熱くなる。


こんなこと言ってくれる夏乃を俺は振ったことになんの?……それって、どうなの?

この先、夏乃より俺のことを想ってくれる女に俺は出会えんのか?こんな深イイこと言ってくれるのは夏乃だけかもしれなくね?



夏乃は菩薩か?菩薩なのか?



「1日藤井を独り占めできたら、それでいいや」

「さ……さっきから、何恥ずかしげもなくペラペラ……」

「だって、今日だけだから。言いたいこと、素直に藤井に伝えるのは今日だけ」



俺より少し先を歩く夏乃が、俺を振り返りながら少しだけ哀しそうに微笑むから、どうしていいか見失う。


そんで、一瞬頭を過ぎった『夏乃と付き合ってみてもいいんじゃ』なんて言う甘い考えはすぐに捨てた。


好きでもないのに中途半端なことするのは、1番最低だって思うから。やっぱ、夏乃には立花みたいなのが似合ってんのかもな。


意外に電話でも会話続いてるし、立花も夏乃のこと結構気に入ってるっぽいし、夏乃も夏乃で満更でもない感じだし?


「うわ〜!!見えたよ、藤井!!」


なんて考えてる俺そっちのけで、突然駆け出した夏乃が嬉しそうに海を指さしてはしゃぎ出すから、


いいや。やめた。



うだうだ考えてるのは人生を損している気分になる。なーんも考えないのが、俺らしい。
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