ひざまずいて、愛を乞え~御曹司の一途な愛執~
逃げても逃げても

「聞いたわよ~ん」

 翌日のお昼休憩時間。お昼ご飯も食べず、社員食堂でぼんやりと窓の外を眺めていた葵の隣に、黒のユニフォームを着た、すらりと背の高い男性がウキウキした様子で腰を下ろした。

 なんとなく朝から周囲に、遠巻きにされている自覚があった葵は、隣に躊躇なく座ってきた彼を見あげて、苦笑する。

「――面白がってますよね」
「がってるわねっ!」

 ビシッと親指を立てる彼は、津田渉(つだわたる)といい、外資系化粧品メーカーであるCC――ケイシー・ケイジの美容部員だ。身長は百八十近くあり、すらりとした体躯をしている。顔だちも、すっきりとしたイケメンだ。

 ベリーショートの髪は金色に染めていて、そしてあやつる言葉の通り、オネエでもある。男性だが、いわゆるカリスマ販売員で、彼の顧客には有名女優やモデルといると言われていた。

 他人に尋ねられても、『あらやだ、非公表よっ!』としかいわないので正確にはわからないが、年齢はおそらく三十くらいだろう。
 男性でも女性でもない、そして彼のコミュニケーションスキルから、葵も入店当初からわりと気軽に話している相手だった。

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