gift
△2手 omurice

ちょっとしたパソコンの不具合なら直してしまうくせに、コーヒーメーカーの使い方がわからないなんて、人としてのバランスが悪すぎる。
湊くんは、

「コーヒー淹れます」

と、颯爽とキッチンに入ったくせに、

「なんか溶けないんだけど」

と私に助けを求めてきた。
キッチンに行くと、カップの中では、お湯とコーヒー豆がくるくる踊っていた。

「インスタントコーヒーじゃないんだから、コーヒーメーカー使わないと」

とアドバイスしたところ、今度はポットの中に豆を投入しようとしたので、直前で奪い取った。

「湊くんって不器用なの? ただのアホなの?」

無事にはいったコーヒーをカップに注ぎつつ、嬉々としてけなしてやった。
均等に淹れたつもりなのに、なぜか不平等に分配されたコーヒーを一瞥して、湊くんは呆れた視線を私に向けたものの、世話になった手前文句は飲み込んだようだ。

「ただの経験不足だよ。器用でないことは認める」

湊くんがふたつカップを持ったので、私も残りのふたつを持ってリビングに移動した。

冬物のダウンが重苦しく感じるようになってきた三月半ば。
私たちは、同じ課の先輩ってある岩本さんの新居にお邪魔していた。

岩本さんがマンションを買った! その情報を美里さんから聞いた私たちは「岩本さん、ついに結婚か!? 相手なんかいたっけ?」と慌てたのだけど、

「ひとりで買ったんだって。2LDK。まあ、一人暮らしでも物は増えるからね」

と美里さんは哀れみと、なぜか怒りをたたえた声で言った。

「ついにひとりで生きていくことを決めたのね。頑張れ、岩本さん!」という励ましが20%、「どんなボロ家なんだろう?」という興味が50%、「特にすることないし」という暇つぶし(拓真は今週末も出張らしい)30%で訪問を決めた私と美里さんは、「どうせ暇でしょ?」と湊くんも引きずり込んだ。

「だったら湊くんより仕事が遅い私は、すごーく不器用ってこと?」

「仕事はともかく、器用ではないでしょ?」

リビングにはガタついている折り畳み式の小さなテーブルがあり、その上にきれいに包まれたオムライスふたつと、ボロ布(原材料=卵)が添えられたケチャップライスがふたつ並んでいる。
お手本みたいなオムライスは美里さんの作。
つまり、残りふたつが私の作だ。

手土産に私はケーキ、美里さんは地元の聖水(大丈夫! きっと単なる水だ)、湊くんはなぜか魚肉ソーセージを持ってきたのに、誰もお昼ご飯のことは考えていなかった。
冷蔵庫もほとんど空っぽで、卵とご飯だけはあったから、湊くん持参の魚肉ソーセージを具材にみんなでオムライスを作ってみよう! ……と、こんな結果になった。
< 12 / 105 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop