溺れてはいけない恋
δ.揺れ動く恋
俺はしばらく彼女と会うのを避けた。

そのタイミングで三上に呼び出された。

都内のハイグレードなホテルのレストラントへ向かい

最上階にある中華料理店の薄暗い個室へ通された。

「一輝。」

三上は相変わらずの様子だ。

先に紹興酒を舐めていた。

最高級の中華料理が適度な間隔で運ばれ

俺は三上がつとつとと話す世間一般の話題に

ただ相槌を打ちながら料理を口に運んだ。

三上は食後に熱い茶をすすりながら

満足気に俺を見てこう言った。

「一輝。多良が家を出たって?」

「彼女は俺の手に余る。」

「人は自分の思うようには動かない。そう思わないか?」

「そうだな。」

三上は俺に何を言いたいのだろうか。

「多良の母親は昔駆け落ちして連れ戻された。」

「えっ?」

それは初耳だった。

「腹の子は、今の父親とは血が繋がってない。」

「えっ?じゃ、誰の子なんだ?」

それはかなり衝撃的だった。

「つまり、駈け落ちした相手のだ。」

「嘘だろ?だってあの祖母に、あの母親だ。そんなはずはない。」

「母親は決められた結婚をする代わりに、愛する男の子供を産む条件を祖母に飲ませたのさ。」

俺は絶句した。

三上はそんな俺には関係なく話続けた。

「多良の父親が誰だか知りたいか?」

俺は知ってはいけないような気がしたが

目は三上に知りたいと訴えていた。

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