スノーフレークス

 親不知海岸で波打つ日本海を眺めながら、私たち家族は特急列車に揺られていた。今はおとなしくさざ波を立てているだけのこの海も、冬場となればどんより曇った空の下で荒れ狂うのだろう。

 私たちの座席と同様、通路を挟んで隣の席にいるビジネスマンと思しきおじさんたちも、座席を向かい合わせにしている。
 眼鏡をかけ、浅黒い顔をしたおじさんが中心となってしゃべっている。他の三人より年かさに見える彼がおそらく上司なのだろう。おじさんたちの話を聞いていたら、彼らも私たちと同じ町に向かっていることがわかった。東京方面への出張の帰りなのだろう。
「種子島出身の富山県在住者なんて俺くらいしかいないんじゃないの」
 年長のボスが言う。
「確かに少ないでしょうね」
 部下の一人が相槌を打つ。                           
「あ、僕、種子島出身だって人に会ったことありますよ」
 別の連れが言う。
「へえ、そりゃ珍しいこともあるもんだ。もしその人がお前の知り合いなら、一度会わせてもらいたいもんだな」
 それからボスはえんえんと生まれ故郷の島について語っている。島の高校野球の話、同郷の有名人の話、島の観光名所の話、奥さんが富山県出身だった縁で富山に移ってきたという話。電車乗り合わせた私たちは、隣に座っているだけで彼の人生をほぼ全部知ることができた。
 おじさんたちの話を聞いていた父さんが私に目くばせして微笑する。ボスは私たちと同じ人種だ。遠く離れた町から日本の裏側にある小さな町に移り住んできたよそ者だ。それにボス同様、父さんも南の島で生まれ育った。私の「葵」という名前は、熱帯の花でアオイ科のハイビスカスにちなんで名付けられた。

 沖縄生まれの父さんは東京の大学に進学し、就職したのも東京に本社がある生命保険会社だった。東北出身の母さんとは大学時代に知り合い、二人は父さんが就職してから三年後に結婚した。二人はやがて横浜のベッドタウンに居を構え、父さんはそこから都内の支社に通勤していた。
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