スノーフレークス


 それから季節は流れた。ESSの部室の窓から見える楢の葉も、紅く染まったかと思ったらもう散り始めた。あの問わず語りの池の上にも紅や黄色の葉がたくさん浮かんでいる。

 部室にはいつもクリスと手島君がいて、そこに時々澁澤君とALTのアイリス先生が加わった。
 澁澤君がプリントを見つけてくれたお陰で地理の宿題を再提出することができたから、私は彼にそのお礼を言った。プリントを受け取った時以来彼とはあまり話をしていないからちょっぴり寂しい。でも特に用もないのに馴れ馴れしく話しかけることなんかできない。彼は馴れ馴れしい女なんか嫌いだろう。
 私はもう、氷室さんを部室に誘うのをあきらめかけていた。谷口さんの言うとおり、やはり彼女は放っておいてもらいたいのだと思うようになった。別に澁澤君に忠告されたから彼女と距離を置いているわけではなく、ただ彼女のテリトリーにむやみに入りたくないだけだ。

 私たち家族もこの町での生活に慣れていった。気温がだんだん下がってきたけど、セントラルヒーティングのマンションはいつも暖かくて快適だ。家の中では薄手のカットソー一枚でも過ごせる。暖かい部屋のお陰で母さんの体調もまずまず良好だ。十一月の祝日には父さんがうちの古いホンダを運転して、三人で峡谷に紅葉狩りにいったりもした。

 十二月の初旬になると私は期末テストに向けて勉強していた。夕飯を終えた夜、私はいつものように自分の部屋で机に向かっていた。ここ数日、空はどんよりと曇って昼間でも薄暗い。
 町中ではいつも車の騒音が聞こえていたのに何故だか今夜はやけに静かだ。ふと窓の外を見ると、暗闇の中で白いものが風に舞っているのが見えた。私は窓辺に近づいて外の様子を確かめる。

 雪だ。雪が降っているのだ。

 私はすぐに窓を開け、眼下に広がる町を見下ろした。古い町並みはすっかり白い雪で覆われ、灰色の空から次々と白い羽毛のような粒が降ってくる。私は思わず歓声を上げた。
外の冷たい空気が部屋の中に入ってきたけど私は気にしない。私は右手を伸ばして、ひらひらと舞い降りてくる雪片をつかもうとした。私の手のひらに着地した雪は瞬時に溶けてしまった。
 マンションの窓から見下ろすと近所の通りには人っ子一人歩いていない。そこはまるで無人の町のように暗く静まりかえっている。
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