愛しの許嫁～御曹司の花嫁になります～

溺愛という名の海

　仕事も落ち着いていて、さほど残業もなく今日も一日が終わろうとしていた。帰り支度をして、エントランスへ向かう途中、鷹野部長の姿が見えた。

「お疲れ様です」

「あぁ、茜ちゃん、もう帰り？」

「はい」

　そう言うと、鷹野部長はさっと袖を少しまくって時刻を確認する。

「本当は送ってあげたいところなんだが……これから打ち合わせなんだ」

「そんな、送ってもらうだなんて……平気ですよ。寄り道でもして帰ろうかと思っていたところだし」

　私の笑顔に鷹野部長も眉尻を下げて口元に笑みを浮かべる。

「今度、仕事帰りに食事でもどうだ？」

「いいですね、是非」

　こうしていると、なんだか付き合っているような感覚に陥る。けれど、そんなひとりよがりの錯覚でさえ、嬉しいと感じてしまう。

「それでさ、今夜時間あるか？　ちょっと話したいことがあるんだ」

　鷹野部長が神妙な顔つきに変わる。