愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~
おそらく彼女のような女性は、ひとりやふたりではないのだろう。
油断すると、いつしか思ってもみない方向へと話が進みかねない。公私を問わず、彼はいつでもそんな状況に置かれているのかもしれない。

そう考えるとたまらない気持ちになり、思わず私は、彼の身体を抱きしめた。ぎゅっと抱きつくように、腕の力を強める。その肩に顔を埋めた。

「瑠衣?どうした」

私に話す彼の声は優しく甘く、すでに先ほどとは違う。
今のようなことが頻繁に起きるのであれば、奏多さんが女性不信になって、結婚を避けたくなったとしてもおかしくはない。

「大丈夫よ、奏多さん。怖がらないで」

彼の首にしがみついたまま言う。

「え?」

「私がいる。私があなたを助ける。もう誰も、あなたを追いつめないように。だから私のことを信じて」

私がいることで、彼の心が少しでも軽くなればいいのに。
そんな気持ちでいっぱいだった。

「ふふっ。……君は不思議だな。人を信じることなんて……ずっとなかったのに。瑠衣にならば、なんでも話せる気がするよ」

彼の温かい手が、私の髪を撫でる。
その感触が幸せで、心地よくて、なぜだか今にも泣きだしそうな気持ちになる。

だけどこの想いは、やはり封印するべきものだとあらためて強く感じた。
偽装であるからこそ、私は彼のそばにいられる。

本物になる可能性など、ほぼないのだから。



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