彼は私を抱いたまま階段を上ろうと、一段目に足をかけた。
金色の手すりが左右にあり、赤い絨毯が敷き詰められた階段を見ながら、私は奏多さんに言う。

「奏多さん、ありがとう。もう歩けるわ」

足の震えは止まっていた。

私たちはそれぞれの目的を果たすため、偽装結婚という形の契約を結んだ。
彼はいなくなるのだから、自分の足で歩かなければならない。

だけどその手を私に差し伸べてくれる間は、彼を信じてついていこう。
やがてあなたの姿が見えなくなるときがきても、私は自分の未来を自分でつくっていこう。

奏多さんといると、次第にそう思えるようになってくる。あなたが私を大切にしてくれるから、自信が湧いてくるのだ。
彼との間に確かにある信頼。
それは私を、強くする。
ふたりを結んでいるものは、愛情ではないけれど、大切にしたいと思う。

「そう?じゃあ、名残惜しいけど解放してあげようかな」

彼は私の額に優しくキスを落とすと、私の身体をそっと下ろした。

「うんとドレスアップして、親戚を驚かせよう。君が一番綺麗に決まってるから、誰も文句なんか言えないさ」

彼が囁く魔法の言葉が、私の耳をくすぐる。
弱気で卑屈な私を、今夜は封印できそうな気がしてきた。