愛され婚~契約妻ですが、御曹司に甘やかされてます~

「……さて。じゃあこちらも、本番といきますか」

奏多さんが私の肩を抱いて、身体を密着させてくる。

「どうしよう。なんて言えば……」

海斗の怒りに満ちた、燃えるような目が私を捕らえている。
彼の気迫に、正直私はたじろいでいた。

「俺の存在を忘れてない?話をつけるのは、君じゃなくて俺だよ。瑠衣は黙って見ていたらいい」

奏多さんが私の耳元で囁きながら、肩を押して歩く。
私は気が進まないながらも、彼の動きに従った。

「長澤さん。初めまして。……というのはおかしいか。いつもお疲れさま。月島ホールディングスCEOの月島奏多です」

海斗の目の前に立ち、奏多さんがにこやかな声で、海斗に言う。

「月島住建、営業二課の長澤海斗です。お初にお目にかかります」

海斗はそれだけ言うと、営業マンらしくきちんとお辞儀をした。

顔を上げて海斗が奏多さんを見る。

「……言いたいことがあるならば聞くよ。今日ばかりは無礼講だ。君がなにを言っても、仕事には影響しないことを約束しよう。遠慮なく言って」

黙ったままの海斗を挑発するように、奏多さんが言う。
海斗は私から目を逸らし、俯いて軽く深呼吸をすると、奏多さんを見た。

「月島CEO。ではお言葉に甘えまして、遠慮なく、失礼を承知でお尋ねいたします。今日、俺が見ているすべてのことは、果たして事実なんでしょうか」



< 89 / 184 >

この作品をシェア

pagetop