Marriage Knot

王子様のお城

「ここが、僕のアトリエです。ようこそ、結さん」

次の日曜日、私は副社長のお誘いを受けて「アトリエ」にお邪魔した。あの約束……クロシェレッスンの始まりは、このアトリエで。それが彼の希望だった。

「お、お邪魔します……」

私は少しおどおどしながら、開けてもらったドアの中へ滑り込んだ。あこがれの人の部屋に案内されるなんて、まったく夢にも見たことがなかった。
そして、そのアトリエは、副社長のきっちり着込んだ体に合ったスーツのようにきちんと片付けられ、上品でシックな家具に囲まれていた。

「ここは、僕だけの『城』ですよ。会社では副社長、家ではできる息子を演じているようなものです。でもここでは、素になれる。大好きなニットを心ゆくまで編むことができるんです。狭いですが、ごゆっくり」

狭いといっても、アトリエに3LDKは広いと思う。さすがだ。副社長はカウンターキッチンの向こうで、慣れた手つきで紅茶を淹れている。私は休日に副社長のリラックスした様子を見ることができるのが物珍しくて、こっそりその横顔を見つめていた。
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