次期王の行方 ~真面目文官は押しに弱い?~
クスイ国の城下町
 王の言葉から2ヶ月が過ぎ、クーデノムとマキセは城下町に足を運んでいた。
 賑やかな店が立ち並び、豊かな日常の風景。
 しかし、夜になるとまた違った雰囲気が楽しめる。
 それがここ賭博の国・クスイだ。
 月に一度、クーデノムは下町の役所に足を延ばす。
 数年前に働いていた職場だった。
 役所に寄せられる相談をこなして行くうちに仕事を認められ、気が付けば王宮にまで出入りする程、出世していた。
 今では国中からの訴えの書類、また国外からの外交モノまで目を通す役目を与えられ処理に追われる毎日だ。
 それでもやりがいのある今の仕事に満足しているのでそれ以上は望まない。だから後継者選びに巻きこまれるのは不本意だった。
「よぉ、マキセ。サボリか?」
「とうとうクビにされて戻ってきたか?」
 道行く人が気軽にマキセに声をかけていく。
「この格好が目に入らぬか。これも仕事だよ」
 腰には剣を下げた近衛士の姿のマキセ。
 彼は下町で用心棒として生活していた。
 外見の細見のイメージとは違い、意外とマキセは強い。
 飲み屋で騒ぎを起こしていた巨漢、3人相手をして一瞬で伸したことは語り草になっている。
 ちなみにクーデノムとマキセの出逢いもその時。
 その強さを認められ王宮の近衛士として雇用された。だから町の者もマキセには 親近感を持ち話しかけてくるのだ。
 今日も下町へ出かける、一応高官の部類に入るクーデノムの警護の仕事として付いてきたのだった。
「こんにちは~」
 声をかけて先に役所に入ったのはマキセ。
「マキセ…クーデノム殿」
「先月分の回答書、持って来ました」
 そう言って持ち出したのは分厚い書類の束。
「ありがとうございます」
 お礼をいいながらクーデノムから書類を預かると、所の責任者を呼んできた。
「わざわざありがとうございます」
と、年配のかつての上司に礼を言われ、促された椅子へと腰を降ろした。
「最近、何か変わったことはないですか?」
「特にありませんけど…そういえば、最近王宮の人がよく下町にやってきますね。何か調べものをしているとか」
「大きな声では言えませんが、次期王探しですね」
「え、もうですか?」
 クーデノムの言葉に少し驚きの表情を見せる。
 現王が即位してからまだ十年も経っていないのだ。
「今回はどんな条件を…?」
 毎回、王の選び方が違うのは周知の事実のため、それを楽しんでいる者も実は多い。
「実の息子を探出して王になるよう説得しろ、てことだ」
 クーデノムの後ろに控えるようにして立っているマキセが楽しそうに口を挟む。
「王に子供が…初耳ですね」
「だから皆、必死で探しているんです」
 苦笑したクーデノムの言葉に思い出したようにマキセが、
「そうそう。なかなか見つからないから王がヒントを出したって聞いたぞ。“灯台もと暗し”って」
「では私たちもよく知っている人物なのかもしれませんね」
「意外とね」
「王と言えばまた……」
 楽しそうに言い放った責任者の次の言葉に、クーデノムはため息をついた。
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