「しばらく、様子を見よう。手荒いことをするような人には見えないよ。とっても落ち着いているし」
「うん、そうだな。先入観、良くないよな。それに接客なら姉ちゃんのほうが経験もスキルもある。姉ちゃんがそういうなら様子を見る」

 美鈴は元々、大手コンタクトセンターで『SV』をしていた。コールセンターのオペレーターから、そのオペレーターを管理する『スーパーバイザー』、つまりリーダーのようなポジションまで手に入れていた。なのに辞めた。

 テクニカルサポート、クレーム対応、さらに生産性を向上させるなどの細かい管理仕事は嫌いではなく、やり甲斐もあった。お客様と話すのも大好きだった。長く勤めてSVを任されたのに……。

 その接客スキルを『うちの店で活かしてくれ』と弟に頼まれた。

 弟が持っている携帯電話が鳴る。着信表示は『莉子りこ』とある。弟の妻。美鈴にとっては義理の妹になる。

「うん、俺。ああ、いま大丈夫。客いないから。身体、大丈夫か。気にするなよ。こっちに降りてくるなよ」

 いま客足がなくなる時間帯とわかって、彼女が電話をしてきたのがわかる。義妹から美鈴とも話したいと言ったようで、弟が電話を差し出してくる。

『あ、すずちゃん。いまから買い物に行くんだけれど、なにか買っておきたいものある?』

「今日はないかな。買い物行くの? 私が行ってもいいんだよ」

『大丈夫。だって動かないと赤ちゃんのためにもよくないって、先生が言っていたから。それに私だけお店のお手伝いできなくなって、部屋にこもりっきりで、気が滅入っちゃう』

「そっか。そうだね、外の空気も大事だよね。気をつけてね」

 わかったと元気な声で義妹が電話を切った。弟に電話を返し、二人は一緒に店の天井を見上げる。
 二階にその義妹がいるから。

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