「フレデリカ様、いい宵を!」


すれ違う誰もが装いを凝らし、ほろほろと浮かれ、笑顔をこぼしている。

藍色の空を篝火が紅く染めているのが、丘のふもとからも見える。斜面をじぐざぐに這う石の階段をゆっくり上りながら、フレデリカは道行く面々と挨拶を交わした。

頂上は広々としており、八〇〇年ほど前に建てられたと言われる神殿の跡地がある。中央が少しくぼんだ石畳の広場は、当時からそのまま残っており、神事や祭事といった特別なときだけ入れる場所になっている。

今そこでは、見上げるほどの篝火が躍り、時折風に揺れては火の粉を夜空にまき散らしていた。

広場の空気は熱され、胸のあたりから上は汗ばむほど暑く、足元はひんやりした夜気が通り抜ける。この状態がそこかしこで振る舞われる蒸留酒と相まって、人々の頭を恍惚と溶かすのだった。


「あっ、フレデリカ様、いい宵を」

「お疲れ様、リノ。盛大な篝火ね」

「ルビオの奴が手を貸してくれたおかげでさ」

「そのルビオは、生きてる?」


ルビオは祭の準備でここに泊まり込み、もう五晩ほど家に帰ってきていないのだ。すっかり村の若衆に溶け込んでいるらしい。


「生きてますよ、おい、ルビオ!」


リノの呼びかけに、篝火の奥に座っていた人影が身体を起こした。すらりとした体躯が、長い脚で地面を踏んで、ゆったりとした足取りで近づいてくるのを、フレデリカはぽかんと見つめた。

身体にぴたりと合った上下に、鮮やかな文様を染め付けた毛皮のローブを片肌脱ぎに着て、美しい細工の入った太い革のベルトで腰を締めている。足元は柔らかそうな黒革のブーツ、頭に巻いているのはローブと揃いのターバンだ。

この土地の伝統的な、祭の装いだ。今夜はみな、色や細部は違えど、似たような恰好をしている。だがルビオのそれは、もう…。


「どうしたの、その衣装」

「リノの親父さんが貸してくれたんだ。ぼくも祭に参加できるように」


満足そうに笑う顔を、篝火が照らす。

余裕のある広くたくましい肩、そこから伸びる若々しい背中、胸。

なんというか、容貌の格が違う。

フレデリカは圧倒されるような思いで、無邪気に祭の高揚を楽しんでいる様子のルビオを眺めた。

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