気高き国王の過保護な愛執
侍女らしい不愛想な女が、偉そうに鼻を鳴らす。フレデリカは早くもこの王城を、会ったこともない王ごと嫌いになりそうだったが、態度に出てしまうと困るので、ぐっと飲み込んだ。

新王は人嫌いである。

少なくとも噂ではそういうことになっている。めったに、というかおそらくまだ一度も、民衆の前に姿を現していない。継承もひっそりと行われ、通常であれば国中がお祭り騒ぎになる即位の儀も、極力簡略化されたと聞く。

根暗な変人かしら、とフレデリカは、ここで待っていろと座らされた椅子の上で考えた。

そうだとしても差支えはない。王なんてもう二度と会わないだろうし、ただその性質が、イレーネ王女に共通していないことを祈るだけだ。


「フレデリカ殿」


はっと我に返ると、戸口に男性が立っていた。

一見して、これまで目にした使者や侍女とは身分の異なる人物だった。光沢のある絹の上衣に革の胸当てをつけ、黒いビロードのマントで片方の肩を隠している。

王の側近と思われた。それにしても若い。

うなじまである柔らかそうな茶色の髪を揺らし、端正な顔が微笑んだ。


「陛下がいらっしゃいます。参りましょう」


横柄な態度だった侍女が、ささっと隅に下がる。やはり相当な立場の人なんだわ、と横目でそれを見ながら、フレデリカは立ち上がった。

広間に通されるのかと思いきや、なんと王の私室に近い、大臣たちが会議などをする部屋に行くと聞かされた。


「陛下は仰々しいのが苦手なんですよ」

「心得ておきます」

「申し遅れました、私はクラウス。王城内の諸々を取り仕切るお目付け役のようなものです」


優美な顔立ちは、女性的とも言えるかもしれない。地味な役職に聞こえるが、それはつまり、隠れた権力者なんじゃないかとフレデリカは慎重にうなずいた。

通された部屋は、磨き込まれた木の壁が印象的な、調度を取っ払えばちょっとした球遊びでもできそうな広さの部屋だった。

アルファベットの"U"の字を描くように重厚なオークの机が並び、周囲をビロード張りの椅子が囲んでいる。
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