気高き国王の過保護な愛執
ルビオの背中に緊張が走った。右手が反射的に短剣の柄に伸びたのを、フレデリカが押し留める。


「なにか知っているの?」

「ご存じなのは、陛下でございます。その」


震える手が、驚くほどなめらかに持ち上がり、ルビオの額をひたと指さす。


「眠れる記憶の中に」


ルビオの狼狽は、隣に立っていてもわかるほどだった。

もう一度深々と礼をすると、老人は塀のそばに戻りうずくまった。まるで"物"になってしまったような姿から、なにを話しかけても答えはないだろうと思えた。


「兄さま、私があげたお茶、飲んだ?」


イレーネが遠慮がちに問いかける。ルビオがびくっと肩を震わせ、寒さから身を守るように腕をさすった。


「すまない、まだ…」

「思い出すのが嫌なの?」


妹姫に背中を向けたルビオが、唇を噛みしめるのをフレデリカは見た。


「イレーネ様、部屋に戻って、今日の復習をしましょう」


小さな手を引き、立ち尽くすルビオに儀礼上のお辞儀をしてパラスへ向かう。

途中、ふっと視界の隅を横切った黒い影に、ぎくっとした。

ゲーアハルト卿だった。

遠慮のない視線で、こちらを見ている。フレデリカは膝を折り、気づいているということを示して先を急いだ。

王妃が言っていた。


『私もいい加減真実を知りたい。調べさせることにしたわ』


ひらひらと優雅な手招きに応じて、広間の暗がりから立ち上るように現れたのは、ゲーアハルト卿だった。

雲ひとつなかった空が陰り、遥か見渡せる遠くに黒い筋が横に伸びている。

イレーネの温かな手を、心強くも、壊れ物のようにも感じた。



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