元ヴァイオリン王子の御曹司と同居することになりました
1

朝7時。
会社に一番乗り……と思ったら、明かりが点いている。誰かいるらしい。

「おはようございまーす」
とフロアのドアを開けると、奥の机の若い男性が顔を上げた。

「おはようございます」

と返してきたのは、

……常務!

広くもないフロアに2人きり。

内心舌打ちをする。
せっかく早く来たのに仕事しづらいな。

なお、こんな無礼なことを考えられるのは、常務といっても私よりひとつ年下だからだ。

「今日は早いですね」

「あ、はい……」

自分のデスクに向かいながら、愛想笑いとともに答えると、彼は仕事の手を止めて言った。

「早く帰らなくてはならないからですか?」

‼︎

その通りですけど、なぜ!
この常務、社員の動向を把握してるのか⁉︎
そんなバカな。私ごとき末端のヒラ社員に気を回していられる時間などないはずだ。

「今日はオケの練習日ですもんね」

「っ‼︎⁉︎」

思わず悲鳴に近い声が出そうになったけど、すんでのところで飲み込んだ。

彼は立ち上がってから、申し訳なさそうに、

「就任以来、他の人の目もあったので、ご挨拶する機会がなくてすみませんでした」

と言った。

いや。
いやいや。
別に挨拶は結構ですから。

彼は王子スマイルを浮かべながら、続けた。

–––––––「お久しぶりです、希奈さん」



< 1 / 108 >

この作品をシェア

pagetop