夏の忘れもの
夏の忘れもの


「暑い……」


茹だるような暑さに、思わずひとり言が漏れた。人の波に押されながらもなんとか座席を確保して、ほっと息をつく。


夏の陽射しが容赦なく降り注ぎ、肌をジリジリと焼いていく。


吹き出してくる汗を拭いながら、出かける前に塗ってきた日焼け止めはもう意味をなしていないだろうなと思う。


ただでさえ、学生時代にソフトボールをやっていて紫外線をガンガン浴びていたのだ。油断はできないお年頃だ。


いそいそと日焼け止めを塗り直し、暑さに負けて一度脱いだカーディガンを羽織って帽子を深く被り直す。


この場所を訪れるのは、実に十年ぶり。


グラウンドに白い線で描かれたダイヤモンドを見つめると、あのときの異様な熱狂が甦る。いまだに夏になると思い出す光景。


グラウンドに崩れ落ちる同級生。頭を抱えてマウンドにうずくまるクラスメイト。


そして、たったひとりホームベースの前に立ちすくむ彼。


十八歳の夏。私は、恋をしていたーー。

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